2009年12月26日土曜日

顧問弁護士(法律顧問)がよく問い合わせを受けるテーマ:公益通報者保護法

このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、未払いの残業代の問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。

今日は、公益通報者保護法についてです。


(1) 公益通報の対象となる事業者の法令違反行為

◇ 対象となる法律

「国民の生命、身体、財産等の保護にかかわる法律」として定められた413本の法律(現在)が、通報の対象となる法律です。


◇ 対象となる法令違反行為


 刑罰規定に違反する行為(罰金や懲役等の刑罰が科される法令違反行為)
 最終的に刑罰規定に違反する行為につながる法令違反行為
(例:「届出義務」⇒(届出義務違反)⇒「勧告」⇒(勧告違反)⇒「命令」⇒(命令違反)⇒「刑罰」)


(2) 誰がどのような内容の通報をする場合に対象となるか

労働者が、その事業者(労務提供先)又は当該労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者について、通報の対象となる法令違反が生じ、又はまさに生じようとしている旨を通報する場合です。

ここに、「労務提供先」(労務を提供する事業者)とは・・・

 事業者において労働契約に基づき働いている一般の労働者(正社員、アルバイト、パートタイマー等)は、その雇用元の事業者
 派遣労働者の場合は、派遣先の事業者
 取引契約に基づいて労務を提供する場合は、取引先の事業者

を「労務提供先」としています。
事業者には、法人や個人事業者のほか、国、地方公共団体などの行政機関も含まれます。

ここに、「労働者」とは・・・

「労働者」には、正社員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーなどが含まれます。

ここに、「通報の対象となる法令違反が生じ、又はまさに生じようとしていること」とは・・・

通報対象となる法令違反が、現に生じている場合か、又は発生が切迫しており発生の蓋然性が高い場合のことです。


(3) 通報先

「通報先」は・・・

 事業者内部(労務提供先)
 行政機関(処分等の権限を有する行政機関)
 その他の事業者外部(被害の拡大防止等のために必要と認められる者)
の3つであり、それぞれ保護要件が定められています。



①事業者内部(労務提供先)

労働者の労務提供先の違いにより、以下の3つに分かれます。
(1) 労働者が雇用元の法令違反を通報しようとする場合
  雇用元の事業者です。

(2) 派遣労働者が派遣先の法令違反を通報しようとする場合
  派遣先の事業者です。

(3) 労働者が取引先の法令違反を通報しようとする場合
  取引先の事業者です。

なお、労務提供先の事業者が、あらかじめ通報先として、弁護士等を定めている場合には、そこへの通報も事業者内部への通報になります。



②行政機関(処分等の権限を有する行政機関)


通報先としての「行政機関(処分等の権限を有する行政機関)」とは、通報の対象となる法令違反行為について、法的な権限に基づく勧告や命令を行うことができる行政機関のことです。

どの行政機関が「処分等の権限を有する行政機関」に当たるかは、各法令に基づき定まっています。

(注)「行政機関」には、各省庁等のほか、都道府県などの地方公共団体も含まれます。



③その他の事業者外部(被害の拡大防止等のために必要と認められる者)


「その他の事業者外部」とは、通報の対象となる法令違反の発生や被害の拡大を防止するために必要と認められる者です。被害者又は被害を受けるおそれのある者を含みます。

例えば、
・報道機関
・消費者団体
・事業者団体
・労働組合
・周辺住民(有害な公害物質が排出されている場合)
など様々な主体が該当します。

ライバル企業など「労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者」は除かれます。


(4) 通報先ごとの保護要件

3つの通報先に応じて、それぞれ保護要件が定められています。

①事業者内部への通報を行おうとする場合


(1) 不正の目的で行われた通報でないこと
例えば、金品を要求したり、他人をおとしめるなどの目的の場合は保護されません。


②行政機関への通報を行おうとする場合

以下の2つを満たすことが必要です。
(1) 不正の目的で行われた通報でないこと
(2) 通報内容が真実であると信じる相当の理由があること


③その他の事業者外部への通報を行おうとする場合

以下の3つを満たすことが必要です。
(1) 不正の目的で行われた通報でないこと
(2) 通報内容が真実であると信じる相当の理由があること
(3) 次のいずれか1つに該当すること
ア 事業者内部又は行政機関に公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
イ 事業者内部に公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ウ 労務提供先から事業者内部又は行政機関に公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
エ 書面(紙文書以外に、電子メールなど電子媒体への表示も含まれます。)により事業者内部に公益通報をした日から二十日を経過しても、当該対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先が正当な理由がなくて調査を行わない場合
オ 個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合



会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。 なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。
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2009年11月29日日曜日

顧問弁護士(法律顧問)がよく問い合わせを受けるテーマ:株主総会の運営

このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、未払いの残業代の問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。

今日のテーマは、株主総会の運営についてです。

株主総会においては、総会の運営を円滑にさせるべく、従業員株主を参加させることが多い。では、会社が、従業員株主を別の入り口から先に入場させて会場の前方の席に座らせた場合に、希望する席に座れなかったほかの株主との関係で問題があるといえるでしょうか。

この点について、最高裁判例の中には、このような措置は適切ではないが、法的利益を侵害したとはいえないと判断したものがあります。以下は、その判決文の引用です。

株式会社は、同じ株主総会に出席する株主に対しては合理的な理由のない限り、同一の取扱いをすべきである。本件において、被上告会社が前記一の2のとおり本件株主総会前の原発反対派の動向から本件株主総会の議事進行の妨害等の事態が発生するおそれがあると考えたことについては、やむを得ない面もあったということができるが、そのおそれのあることをもって、被上告会社が従業員株主らを他の株主よりも先に会場に入場させて株主席の前方に着席させる措置を採ることの合理的な理由に当たるものと解することはできず、被上告会社の右措置は、適切なものではなかったといわざるを得ない。しかしながら、上告人高橋は、希望する席に座る機会を失ったとはいえ、本件株主総会において、会場の中央部付近に着席した上、現に議長からの指名を受けて動議を提出しているのであって、具体的に株主の権利の行使を妨げられたということはできず、被上告会社の本件株主総会に関する措置によって上告人高橋の法的利益が侵害されたということはできない。そうすると、被上告会社が不法行為の責任を負わないとした原審の判断は、是認することができ、原判決に所論の違法はない。

会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。

個人の方で、以上の点につき相談したいことがあれば、弁護士にご相談ください。



なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。
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2009年2月21日土曜日

残業代請求

今日は、サービス残業の残業代請求についての裁判例を紹介しています(つづき)。

オ 本件各雇用契約に基づく原告らの勤務形態には、本件ビルの防災センター裏にある仮眠室(以下「センター裏の部屋」という)で夜間の仮眠を取る勤務形態(以下「勤務A」という)と防災センターとは別の場所にある仮眠室(以下「本件別室」という)で夜間の仮眠を取る勤務形態(以下「勤務B」という)の二種類があり、その勤務時間は、勤務Aが別紙(略)表1、勤務Bが別紙(略)表2のとおりである(就業規則(書証略)三九条(4)(イ)の規定内容と「Mビル警備勤務シフト表(平日)」(書証略)とで、始業時刻等が異なるが、勤務の実態が書証(略)によることについて争いがないので、いずれの表も書証(略)に基づく)。
 また、本件ビルにおける宿泊を伴う警備業務は、勤務Aの者と勤務Bの者の二人一組で行われていた(ほかに日中勤務の責任者が一名)。
(3)原告らの勤務の実績(書証略)
 原告らの勤務実績は、別紙(略)表3のとおりである(書証(略)の各月の勤務割表の記載のうち各原告欄の上段「◎」印が付された日が宿直勤務、下段に「1」と記載された日が勤務A、「2」と記載された日が勤務Bである)。
3 争点
(1)宿直勤務の仮眠時間は労働時間に当たるか。
(2)勤務Bの宿直勤務の本件別室における仮眠時間は労働時間に当たるか。
(3)職務手当の支払が割増賃金(残業代)の一部弁済に当たるか。
(4)付加金請求の可否
第三 当事者の主張
1 原告らの主張
(1)仮眠時間が労働時間に含まれること(争点(1))
 労働基準法(以下「労基法」という)上の労働時間とは、労働者が使用者の拘束下にある時間のうち休憩時間を除く実労働時間である。労働時間に当たるか否かは、実作業から解放されているか、解放がどの程度保障されているか、場所的、時間的にどの程度解放されているかなどの実質的な観点により定まる。
 原告らが宿直して本件ビルの警備業務に従事する場合、センター裏の部屋、本件別室(以下、併せて「本件各仮眠室」という)での待機は、その業務の履行として行われるもので、仮眠時間中であっても警報や電話等への対応が義務付けられているから、仮眠時間中であっても労働からの解放は保障されていない。
 原告らは、勤務時間中は二四時間、本件ビルのマスターキーを携帯すること、事故、不審者侵入、不審物の発見、地震や火災などの非常事態に対応すること、本件ビル内の会議室等の解錠依頼などに応じることを義務付けられていた。非常事態以外であっても、被告からは、常に勤務時間として緊張感を持続させること、本件別室でも制服を着用するよう指導されていたとともに、被告の従業員の中には、実際に仮眠時間中に本件ビルのテナントの会社から執務室の解錠を依頼され対応したことがあり、これに関連して、その時に本件別室で待機していた原告Aにも仮眠時間中でも制服を着用するよう指導がされた。このように、仮眠時間中であっても原告らは、労働から解放されているとはいえない。
 また、宿直業務中は、本件ビルからの外出を禁じられており、仮眠場所も本件各仮眠室に限定され、警報器等の警備設備から離れられないのだから、場所的制約も強い。
 これらの事実に照らせば、仮眠時間は労働時間として取り扱われるべきである。
(2)本件別室での仮眠時間も労働時間に含まれること(争点(2))
 本件別室における仮眠時間も(1)のとおり、外出禁止、仮眠場所の制約、仮眠時間中でも警報等への対応が義務付けられていることは、センター裏の部屋における仮眠時間と異ならない。また、センター裏の部屋に待機している者(勤務A)が、防災センターを離れる場合には(トイレに行く場合を含めて)、勤務Bの指定を受けている者が防災センターで待機することなどもあるのだから、本件別室における仮眠時間も労働時間に該当することに変わりはない。

なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談交渉刑事事件多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題オフィスや店舗の敷金返却(原状回復)などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。

2009年1月11日日曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています。

第二 事案の概要等
1 本件は、宿直によりビル警備業務に従事する原告らが、宿泊時の仮眠時間を含めて時間外割増賃金(残業代)、深夜労働(残業)割増賃金(残業代)の支払を求めた事案である。
2 前提となる事実(争いのない事実及び後掲の証拠により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 被告は、ビルメンテナンス、警備業等を営む株式会社である。
イ 原告らは、いずれも被告と雇用契約(以下「本件各雇用契約」という)を結び、被告の従業員として、原告Aは平成一四年六月から、原告Bは平成一三年一一月一五日から、被告の指示に従い新宿区(以下略)に所在するMビル(以下「本件ビル」という)において、宿泊を伴う警備業務(以下「宿直業務」又は「宿直」という)に従事していた者である。
(2)本件各雇用契約の内容等
ア 本件各雇用契約に基づき原告らに支払われる賃金(月給)は、毎月一〇日締め同月二五日払いであり、通常の労働時間の賃金単価の計算の基礎となる月額は、以下のとおりである。
       原告A      原告B
基本給  一四万二一八〇円 一三万六一八〇円
現場手当      二万円      二万円
職務手当    五〇〇〇円    五〇〇〇円
(合計) 一六万七一八〇円 一六万一一八〇円
イ 原告らの一か月当たりの所定労働時間数は一六三時間である。
ウ 本件各雇用契約に基づく時間外労働(残業)、時間外深夜労働(残業)の割増賃金(残業代)単価は、以下のとおりである(なお、時間外労働(残業)、深夜労働(残業)又はその双方に対して支払われるべき割増賃金(残業代)を併せて「割増賃金(残業代)」という。以下同じ)。
               原告A   原告B
通常の労働時間の賃金単価  一〇二六円  九八九円
時間外労働(残業)割増賃金(残業代)単価   一二八二円 一二三六円
時間外深夜労働(残業)割増賃金(残業代)単価 一五三九円 一四八四円
(計算式、時間外労働(残業)割増賃金(残業代)単価、時間外深夜労働(残業)割増賃金(残業代)単価の順、一円未満切り上げ)
原告A 一二八二円=一六万七一八〇円÷一六三時間×一・二五
    一五三九円=一六万七一八〇円÷一六三時間×一・五
原告B 一二三六円=一六万一一八〇円÷一六三時間×一・二五
    一四八四円=一六万一一八〇円÷一六三時間×一・五
エ 原告らに対しては、給与規程四一条一項に基づき、夜勤手当が支払われ、時間外深夜労働(残業)割増賃金(残業代)(深夜時間外勤務手当(残業代)・給与規程三六条)、深夜労働(残業)割増賃金(残業代)(深夜勤務手当(残業代)・三九条)は支払われないこととされている(四一条二項)。そして、この夜勤手当は、所定労働時間内の深夜労働(残業)勤務割増賃金(残業代)の支払に充当される。
企業の方で、残業代請求などについてご不明な点があれば、顧問弁護士にご相談ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士費用やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。その他にも、個人の方で、交通事故の示談交渉解雇刑事事件借金の返済敷金返却や原状回復(事務所、オフィス、店舗)遺言や相続などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。